第二回のゲストは、日本と世界をつなぐ次世代コンテンツを生み出すメディア・ブランド「BREAKER(株)」の代表取締役アレン・スワーツ氏です。国内初で最大のYouTubeイベント「YouTube FanFest」の仕掛け人でもあります。その社名の通り、“肯定的な破壊力”をもって、これからの日本の動画コンテンツやコミュニケーションのカタチについて語っていただきます。
米田 日本初といっても過言ではないと思うのですが、次世代の動画コンテンツのクリエイターを束ねるとともに、映像の制作も行うエンターテインメントカンパニーを作ろうと思ったきっかけは何でしょうか。
アレン BREAKERを立ち上げる前は、17年間ほどMTVの仕事に携わっておりまして。カメラの前に出る立場からカメラの裏でプロデュースする立場まで、MTVという大きなブランドを色々な側面から見ることができたので、貴重な経験でした。ですが、2、3年くらい前に「もう放送の時代じゃないな」と思い始めたんです。小さい頃から好きだったブランドの仕事に対する満足感が薄れてきた時期と、「配信・動画」という世の中の流れがちょうど重なって。それが、2013年のBREAKER立ち上げにつながりました。
米田 BREAKERの立ち上げメンバーには、ソニー・ミュージックの元社長である丸山茂雄さんがいましたよね。
アレン 新しいメディアをつくるためにも、いろいろな人をコンテンツづくりに混ぜたいと思ったんです。今では、YouTube Japanの立ち上げメンバーとしてコンテンツマネジャーなどを歴任していた人や大手プロダクション出身者や映画会社のマーケティング出身など、異なる背景を持つプロフェッショナル達が、BREAKERというひとつのブランドのもとに集まっています。あと、BREAKERではクリエイターのマネジメントをしているのですが、さまざまなジャンルと国籍のクリエイターを東京に集め、混ぜていくことも考えています。
米田 そこでケミストリーが生まれるということですよね。
アレン そう、バンドのセッションのように(笑)。
米田 ちなみに、昨年は、世界最大のYouTubeイベント「YouTube FanFest」を、日本に初上陸させましたよね。
アレン 海外では、何年も前から行われていたんですけど。若い人たちに崇拝されているクリエイターがイベントの出演者になって、レッドカーペットを歩いてみんなの賞賛を浴びる、みたいな。
米田 MTVアワードやグラミー、アカデミー賞の受賞式のようですね。
アレン 日本でも、ようやくYouTuberが注目されて、YouTube文化というものが定着してきましたが、まだまだですね。Google Japan等、周囲から「日本でも、YouTubeのクリエイターたちをもうちょっとかっこいいカタチで見せられないか」ということを相談されたのが、日本版YouTube FanFestのきっかけだったんです。そこで我々はこのフェスタを、日本に刺さるカタチで料理して、日本の出演者と海外の出演者が混ざるような、新しいYouTubeのブランディングを目指しました。出演者は意図的に、YouTubeで活躍している「YouTubeネイティブ」の人たちと、「オフYouTube」の人達を混ぜることで、YouTubeならではのポテンシャルを見せようとしました。なかなか一筋縄ではいきませんが(笑)。
米田 日本では独特のYouTuber文化が根付いていますからね。動画コンテンツの質や作り方が、今までの映像表現とYouTubeとは違いますし、グローバルと日本を比べても違ってきますよね。でも、アレンさんとしては、映像のクオリティーや拡散をグローバルにしたいという想いがあるんじゃないですか?
アレン そこが、悩みどころであり、やりがいを感じるところでもあります。テレビの世界で、全世界放送となると、莫大なパワーとコストがかかります。広大な会場をおさえて、10数台のカメラで24p撮影をして、大物の外タレを起用して。ようやくコンテンツとして成り立つのです。しかし、YouTubeなら、一個人がスマホひとつで世界に配信できてしまう。
米田 億単位でつくった映像と、スマホ1台・タダで撮った映像が同じ土俵にあるのが魅力であると。
アレン 私たちが狙っているのは、イチ素人ができるコンテンツではなく、億単位でつくるコンテンツでもない、その真ん中のカテゴリーとクオリティーです。YouTubeでやりがいがあるのは、低予算かつスピーディー、そして、より科学的というところ。データを用いて「こういうモノ、こういうコトを、こんな風に作ったら刺さるじゃないか」ということ日々実験している感じです。
米田 なるほど。映像制作におけるファクトリーという側面だけじゃなくて、動画のネット配信におけるデータサイエンスティックな所もすごく意識しているということですね。
アレン テレビでいう放送局が持っている情報よりも遙かに多いデータを、YouTubeアカウントの1オーナーが持っているということになります。「世界のどこの国で見られているのか」「動画の何分何秒のところでみんなが離脱しちゃうのか」というインサイトから、コンテンツ戦略に置き換えることができます。そして、テレビ局よりも、いっそう科学的に、かつスピーディーに軌道修正できるコンテンツ制作が可能になります。
米田 コンテンツ戦略から制作までを一本の筋でつなぐことで、グローバルなクオリティーになるとお考えですか?
アレン はい。そう考えています。
米田 たとえば、日本ではほとんど有名じゃないけれど、海外ではすごく有名な人とか、逆に、日本で有名な海外の人など、思ってもみなかったデータとか出てきませんでしたか?
アレン そうですね。「リンダ3世」という日系ブラジル人のアイドルユニットを、BREAKERでマネジメントしているんですけど。『群馬からブラジルへ』というテーマで、およそ7000人の登録者がいるYouTubeチャンネルを展開していますが、視聴されているのがほとんどブラジルなんですよね。そのデータをもとに着目したのが、ブラジルの童謡である「ひよこの歌」です。これを日本語歌詞に書き換えて、原宿でダンスするという映像を展開したところ、ブラジルで一番再生されました。
米田 ブラジルの童謡と、原宿と、群馬のブラジル人を混ぜて。まさに、ケミストリーですね!
アレン リンダ3世は日本に住んでいて、ご当地アイドルという位置づけにされてはいるんですけど。ブラジルの人達に刺さっているから、ブラジルに住む人達に向けたコンテンツを優先してつくっていく。それって、データがあるからこそなんですね。
米田 発想だけではない、すべての戦略と制作がデータに基づいてなされているわけですね。
アレン 生意気かもしれませんが、多分そこが、テレビ局に勝てる部分かと。このようにデータに基づくコンテンツを量産できたとしたら、BREAKERは、ものすごく影響力のあるメディア企業になれるのかなと思っています。
米田 そのデータサイエンスティックな強みをプラスしたクリエイティビティーも、ものすごく重要だと思いますが、YouTuberや個人クリエイターの力量も大事になってきますね。
アレン 一人ひとりが自分のテレビ局を持っているような感覚だと思います。どこかのテレビ局の番組にキャスティングされるのを待つというよりも、自分で局を持って番組をつくってやっていくみたいな。