時代を面白くする広告 - コミュニケーションの新しいカタチを探る。第3回 ゲスト 川地哲史 クリエイティブディレクター

#03 未来のクリエイターに必要なものは、なにか。

日本人が日本人に向けた広告は、ハイコンテクスト(川地)

日本というのは、強みでもある。

米田 エビフライもJRAも言語の表現に頼らないノンバーバルだから、グローバルに広がり『カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル』をはじめ海外の賞を、いろいろ受賞されていると思いますけれど、海外と日本の広告の違いや、クリエイティビティの違いみたいなのは何か感じられますか?

川地 もともと、JRAもエビフライも日本向けの話なんですね。だから、ノンバーバルであることは見てくれた人が増えたという結果的な話で、本質的なことではないと思います。日本って、共通言語や共通の知識、価値観が背景にある、いわゆる『ハイコンテクスト文化』の国だから、多民族・多宗教の国よりも細かい感情表現でも共感が得られたりするんですね。一方で、多民族・多宗教の国では、アイデアは極めてシンプルじゃないとみんなの共通理解は得られない。そういう背景を考えると、日本と海外ってなかなか比べられないですね。

米田 やっぱり別物ってことですね。

川地 はい。すごく別物だと思います。ただ、一方で、日本でやっているマーケティングで世界に発信しようということも、結構たくさんあるんです。きっと、そういうところは、ノンバーバルなやり方で共感値を作っているなって思っています。

米田 別物ではあるけれども、日本人らしく作ったら、それがクールジャパンみたいに世界に通じてしまうことは、たくさんあるのかなぁって思いますけどね。ある種、閉じられた特殊性みたいなのが受けるような。

川地 JRAも、エビフライも、まったく賞を狙って作ったわけではないんです。本当に、たまたま。変に狙って作ると空振りしちゃうんですよ。

米田 やっぱり、そうですか。他のいろんなクリエイターさんも、みんなヒットは狙わないって言いますね。本当に心底やりたいって思ったことか、限られた予算やスケジュールのなかでひねりだした感じで。制限がある方が、逆にいいアイデアに結びつくみたいですね。

未来に残る、永遠不滅なクリエイティブ

米田 2005年はフラッシュの時代、今はソーシャルの時代というように、いろいろマルチになっていけると思うんですが、今後、広告におけるコミュニケーションはどのように変化していくと思いますか?

川地 効果的なコミュニケーションの形って、「人間の本質(喜怒哀楽)×時流」だと思うんです。「時流」みたいなものに関して、未来のことは正直わからないです。今って、3ヵ月単位くらいで、反応されるものが変わっていく感覚ありませんか? 消費される速度があがっているというか。

米田 たしかに(笑)。

川地 ただ、喜怒哀楽みたいな人間の本質や共感できるところは変わらないので、それをそのときの時流と掛け算するものを考えていこうかな、と思っています。表現手法だったり、場所だったり、構造だったり。

米田 その観点で、気になる広告やクリエイターはいますか?

川地 逆の話をするようですが、時流的な手法論がいろいろあるなかで、単純にCMのクリエイティブだけの力だけで突破している人が気になるというか、尊敬しています。例えば、東京コピーライターズクラブの同期である『村田俊平』さんがいるんですけど。

米田 どのような広告を?

川地 英進館や宮崎県小林市のCMです。完璧に自分のクリエイティビティだけで突破していて、見ていていつも凄いなぁ、と思ってしまいます。普遍的な表現ってずっと機能し続けると思うので、そういうものに惹かれています。

米田 テクノロジーがあって、多様化していっても、アイデアだけで突っ走るのは、永遠不滅なんでしょうね。でも、それは、クリエイターにとっては、すごく救われる話ですね。