時代を面白くする広告 - コミュニケーションの新しいカタチを探る。第3回 ゲスト 川地哲史 クリエイティブディレクター

#02 アイデアからバイラルへ。そのプロセスとは。

WEBサイトは、もはや、イベント。

米田 SPから映像のクリエイティブに移っていかれたわけですが、そこで川地さんが担当して話題となったのがJRAのWEBサイト『ジャパンワールドカップ』ですよね。あの作品は、どのように生まれたんですか?

川地 あれは、もともと「50万人ぐらいにふれるイベントを考えてくれ」というコンペがあり、何かのイベントを考えていたんですけど、途中で、「ちょっと待てよ」と思ったんです。たとえ、大きなキャパシティーの場所で1日イベントをしても、5万人ぐらいにしかリーチしないじゃんって。

米田 東京ドームを満員にしても、ということですね。

川地 そうそう。もっといっぱいの人に触れるイベントを考えて出た最初の発想は、全国の映画館のCM広告である『シネアド』を長尺で買い切ること。勝馬を予想してもらい、スクリーンで競馬体験をしてもらおうってところが始まったんです。さらに多くの人にリーチできる思って、WEBでも同じ体験装置を作ったということが大きな流れですね。

米田 あの作品における、スキージャンプで有名な真島さんの起用は、最初から企画としてあったのですか?

川地 若者に競馬に関心を持ってもらう、というのがミッションだったのですが、調査したら「競馬はおやじくさいもの」という固定概念がすごかったんですね。なので、競馬というコンテンツに興味を持ってもらう入口として、まずは固定概念を破壊しようと。カオスなほどいいなと思ってたんです。監督の候補は2、3人挙がっていたのですが、最終的に真島さんに相談して一緒にやっていくことになりました。最初の打合せで、「2人乗りの馬」とか「キリンを馬と言い張る」なんて言っていて、そのままカタチになりましたね。

米田 あれは、次から次へと変な馬が出てきて、アイデアがてんこ盛りですよね。どれくらいの反応があったのですか?

川地 ニコニコ動画とか、YouTubeとかに、ユーザーさんがアップしていたものがあり、全部でたぶん5,000万回以上はありました。本体のほうも、再生回数で言うと、1,000万回は超えていますね。

米田 最初に言われていた50万人っていうのは、達成したわけですよね。

川地 サイトに訪れたユーザーは300万人くらい。すごく大きな数字で、サイトに300万人を呼び込むことは、なかなか大変だし、滞在時間も10分を超えていましたね。

米田 最後の最後まで楽しめますからね。いろんな動物が競走馬に扮して走って、もう勝負決まったかなって思ったぐらいで、ゾウがまだ後ろから走って来るのかよって(笑)

言語を超えるという表現方法

飛んでいる時の顔つきが面白い(川地)

米田 続いて、『カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル』で高い評価を受けた『爆速エビフライ』なんですが、あれは、どういうカタチで生まれたのですか?

川地 この仕事は、ドコモのネットワークが早いことを、WEBCMを使って多くの人にリーチさせるというミッションでした。

米田 そのお題から逆算して生まれていった感じでしょうか。

川地 そうですね。その逆算の起点として参考になったのが、当時あった『CCレモンの忍者女子高生』の広告。言葉に頼らず、表情、動作、振る舞いなどで伝える、いわゆるノンバーバルなコミュニケーションが効きそうだという感覚はありました。それと、日本的なバカバカしさ。いわゆる技術の無駄遣いみたいなところに、鉱脈があるかもしれないと言っていました。

米田 アイデアのベースのようなものはありましたか?

川地 最初のアイデアは、『世界最速のルーブ・ゴールドバーグ・マシーン』。そこに料理というアイテムを掛け合わせました。いろんな動きをするゾーンを突破して、一瞬で完成する。

米田 あれは、どのぐらいの期間で作り上げていったんですか?

川地 実は、プレゼン当日の午前3時くらいに企画コンテを書いていて。プレゼンは午前10時なのに。

米田 ぜんぜん時間ないじゃないですか(笑)。

川地 そうなんです。午前3時に企画したものでプレゼンして、その日の17時くらいに「決まったよ」って連絡が来て。つまり、実現の可能性を裏付けするフィージビリティーを取らずに提案していたんです。だから、決まったときは全然うれしくない(笑)。それより、ヤバいなこれ…って。納期1ヵ月後だし。

米田 1ヵ月ですか!そりゃあ厳しいですね(笑)。

川地 ひさしぶりに、お腹が痛くなりましたね(笑)。それこそSPの時の気持ち。定着させなきゃ!と。どんなことでも実現してきた百戦錬磨のプロデューサーに、すぐに電話したら「う〜ん…」って(笑)。

米田 でも、NOからが仕事なんですよね。

川地 そうですね。まず1週間で、監督とプロデューサーと射出装置や飛ばし方とか技術的なことも決めながら、スタッフみんなで平行して何の料理を作るかを考えていました。イカ飯や、タンドリーチキン、フレンチトースト、ピザトーストとか、いろいろ考えて装置のチームに相談したんですけど、「ほとんど無理」と言われました(笑)。

米田 ははは(笑)。で、なぜ結局エビフライに?

川地 装置のチームがこれならできると言ってくれたことが一番大きいですが、映像的にはハイスピードカメラで撮ったときの飛んでいる時のエビの顔つきが面白いだろうと。その後、最初の機械の打ち合せで、小麦粉とかパン粉とは、空気で射出できるんじゃないのとか、制作チームと装置のチームと話しながら進めていきました。

米田 実際、すごくヒットしましたが、反響はいかがでした?

川地 すごくありましたね。田舎の父母も知っていました。CMを作っても、田舎の父母のような人達まで、なかなか広がらないのに、そこまで広がっていくのは、新鮮でしたね。金曜日の発表で、月曜日には再生回数が400万回を超えていたんです。だから、クライアントと月曜日に会ったときに「やりましたね!」って握手した記憶があります。

米田 そうやって、一人歩きするのがバイラルの面白いところですよね。

いいものづくりは、共犯関係づくりでもある。

米田 周囲の予想を超えていくためには、ある種、クリエイターもクライアントもお互い度胸が必要だと思うんです。

川地 それで言うと、業界の既存概念や、守るべきトーン&マナーみたいなものは当然どこにでもありますよね。スタートは大抵その理屈のほうが立っているというか。だけど提案していく中でおもしろさが理屈を超える時があるんです。クリエイターとしてはとても幸せなことだと思うのですが、細かい理屈をおもしろさが超えた時って、お互いが世の中に何かを仕掛けるための「共犯関係」になるんですね。そうなるとクライアントさんも「もう、細かい理屈はいいからもっとやっちゃおうよ」という空気になる。

米田 クリエイターもクライアントも一緒にものづくりをする感覚は大切ですか?

川地 はい。でも、きっとどんな仕事でも大切だと思います。共犯関係になれたときはすごく強いと思うんです。一緒にものづくりをしていく感覚になったときは、予想していたものを超えてしまうことが多いです。

#03 未来のクリエイターに必要なものは、なにか。#03 未来のクリエイターに必要なものは、なにか。