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広告業界の未来

第7回 interview

広告業界の未来を語る[株式会社スパイスボックス 代表取締役社長 田村 栄治 氏]

2003年、田村さんは日本初のインタラクティブエージェンシー(デジタル領域の総合広告代理店)として、スパイスボックスを設立されました。その狙いはどこにあったのでしょうか?

2003年のスパイスボックス設立当時、インターネット広告は伸び盛りでした。ネット専業の代理店やWeb制作会社、検索マーケティングの会社などがたくさんひしめきあい、それぞれの分野で仕事をしていた。

でも、広告コミュニケーションというものは、企業活動全体を俯瞰し、そこから戦略プランを策定して、最終的に、どういう人に対して、どのメディアを用い、どんなクリエイティブで伝えるかというところに落とし込んでいくものですよね。
つまり、総合的にかかわらないと成立しない。ところが、デジタルの領域には、それをワンストップでトータルに引き受けられる会社がまだなかったんです。

一方で、クライアントのニーズはどんどん高度化していました。マス広告と同じように、デジタル領域、つまりインタラクティブ広告にも総合的に対応できる会社が、早晩必ず必要になる、だったら自分たちでつくろう――そう考えて、大手総合広告代理店とネット企業の両方で勤務経験のある仲間たちとともに設立しました。

8期目を迎える今年まで毎年順調に業績を伸ばしています。
強さの秘密はなんでしょう?

すぐに似たような会社が出てくるだろうと予想していましたが、思いのほか出てこなかった。だから、独自性を持ったユニークな存在であり続けることができました。

それから、当社のビジネスは広告枠を売ってマージンを稼ぐだけではないので、提案内容と領域の幅が広い。特定の売り物ありきでプランニングすると、どうしてもクライアントの課題に最適なプランにはなりにくいものですが、そこに制約がなかったことも大きいでしょう。

さらに、株主であるDACグループ、博報堂グループとの密な連携に加え、多くの制作会社やメディア関係の会社などと協力関係にあること。そのため、必要に応じてさまざまな特徴を持った専門企業とフレキシブルにチームを組んで仕事ができる。このことも当社の大きな強みだと自負しています。

たとえば当社はデジタルを軸にプランニングをしますが、コミュニケーションのシナリオづくりの中で「テレビも使ったほうがいい」という話になることは少なくありません。その場合は、博報堂がマス広告を担当し、当社がインタラクティブ領域を担うという体制で、クライアントが抱える問題を解決に導いていくことも可能です。

AUのスマートフォンシリーズ「IS series」のプロダクトサイトとWebを使った話題化コンテンツ「IS parade」は、カンヌ国際広告賞を受賞するなど、内外で大きな反響を呼びました。

ソーシャルメディアを利用する若い世代の間で話題となることを狙い、ツイッター上で拡散させる仕掛けとして、自分とフォロワーのアイコンがいっしょにパレードするコンテンツを提供しました。口コミは世界中に広がり、再生回数はなんと約10カ月間で1500万回以上。大成功を収めることができました。

この10月には、三菱自動車の新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」の電気で、巨大なねぶたに明かりをともす「i-MiEV ねぶた PROJECT」を長崎県五島市福江島で実施。「クルマがもっと人々をハッピーにできるはず」という思いを込めて撮ったお祭りのドキュメンタリー映像を現在公開中です。

100、200のアイデアの中からひとつに絞り込み肉付けしていくプロセスは、苦しみもありますが、達成感は計り知れない。
これは広告ビジネスにかかわる醍醐味のひとつです。

それからもうひとつ、実はこちらの方が大事だと僕は思っているのですが、クライアントにパートナーとして選んでもらい、信頼されてともにやっていく。そんな中で、クライアントに評価されたり、頼られたり…ということを実感できる瞬間がやってくるんです。その瞬間こそが、プロとして個人個人の仕事へのモチベーションになる。

うちの社員を見ていますと、僕に評価されるよりも、クライアントの担当者に喜んでもらえることのほうがよほどうれしいと見える(笑)。でも、僕はそれでいいと思うんですよ。

田村さんが広告マンとしてスタートを切られたのは博報堂の社員としてでした。

11年間博報堂で営業の仕事をしていました。デジタルはやっていませんでいたが、コミュニケーションのプロとしてやっていくということはどういうことかを、しっかり学べたと思います。

プロとしてクライアントのニーズに応えるには、そこになにがしかの付加価値をつけなくてはいけない。それはデジタルであれ、マス広告であれ変わりはありません。

その後博報堂を辞め、サイバーエージェントへ。実は、僕は学生時代から経営にかかわりたい、自分で会社をやりたいという気持ちが強かったんです。博報堂に不満があったわけではありません。でも、かなりキャリアを積んでからでないと自分が本当にやってみたいことには近づけないな、と思ったときに、このままここにいていいのか、と悩み始めた。

当時はベンチャーがいくつも元気に立ち上がっている時代。やっぱり刺激は受けますよね。そんなとき、縁あってサイバーエージェントにいる知り合いに紹介してもらったこともあり、転職を決意しました。経営やマネジメントに携われるポジションで仕事ができる、それが何よりも魅力だった。

ですから、デジタルに関しては、ほとんどそこからのスタート。その後サイバーエージェントで仕事をしていくなかで、さきほどお話したように、日本のデジタル領域の広告ビジネスに欠けているものに気づくことになったというわけです。

結局、サイバーエージェントは2年半で退職しましたが、どれもこれも必要な経験だったと思う。ひとつも後悔はしていません。

田村さんのように、デジタルのスキルと総合的なコミュニケーション開発スキルの両方を兼ね備えることは、普通はなかなか難しいように思います。デジタル領域に総合的にかかわっていく御社としては、どのような人材を求めているのでしょうか?

クライアント側にはニーズがある、けれども対応できる人間がいない、実はこれが一番のハードルでした。でも、僕らが採用の段階で求めているのは、360度の人材ではありません。設立以来、たくさんの転職者を受け入れてきましたが、デジタルのスキルと経験はあるけれど、メディアプランニングの経験はまったくない人、メディアプランニングはやってきたけど、制作は経験がない人……とさまざまです。

けれども、それでいいのです。当社には、テトラポッドになぞらえて「テトラ制」と呼ぶ、教育を兼ねた業務遂行の組織があります。1チームを4人程度とし、頂点になる人間1人、新人1人、その他2人が基本。チームは、デジタルに強い人間や制作に強い人間など、得意分野の異なる人間が入り交じるように編成します。

欠けたところも強いところもある人間がチームを組んでいっしょにやっていく。そのうちに、互いに影響を受け合って、それぞれの欠けている部分が次第に強化され、一人ひとりが総合的になっていきます。いい人材は着実に育っていますよ。

これからの広告業界についてはどのようにお考えですか?

ネットメディアに関して言うと、これからもいろいろなメディアが生まれて来るでしょうが、基本的にはすべてがソーシャル的な要素を含んだものになっていくと思います。

個人的に気になっているのは、価値あるコンテンツを誰がどう生み出していくのか。従来は、新聞社や通信社、放送局などがつくったコンテンツをインターネット媒体が吸い上げて配信していました。この形がデジタル化の進展の中で、維持されるのか壊れるのか。生活者一人ひとりの情報発信に価値が見出される時代になってきていますが、「プロ」が提供する情報が情報流通の重要なきっかけになることも依然多いはずです。これからもっとコンテンツの作り手と配信する側を巻き込んだ大きな再編が起こることになるのかもしれません。

そのなかでスパイスボックスがどうやっていくか。

ひとつのイメージですが、エージェンシーはクライアントにとって最適な広告の出稿フォーメーションを組むことが重要なミッションのひとつです。それによっていろんな媒体が活性化しますよね。元気な媒体に触れると生活者がアクティブになる。こんなふうに生活者と媒体とクライアントのWin-Winの関係が作り出せたらいいなあと思います。

そうでもしないと、まだまだ大きな可能性を秘めたインタラクティブ広告の成長にブレーキがかかってしまい、業界自体が沈んでいってしまう。それを防ぐためにも、Win-Winを目指す必要があるのではないでしょうか。

最後に転職を考えている人に一言お願いします。

当社について言えば、もっともっとたくさん採用していきたい。残念ながら人数を十分に確保できないでいる状態です。当社の仕事はみなさんにあまり知られておらず、「日本初のインタラクティブ・エージェンシー」と説明されても、国内においてインタラクティブ・エージェンシーがそもそもイメージしにくい現状では、まだ十分に魅力を伝えられていません。

ですから、ここで改めてお伝えしたいと思います。当社に入社したら、デジタル領域に総合的にかかわれる人材としてのスキルと経験を身につけることができます。

クライアントからは強いニーズがある、にもかかわらず、この業界にはまだまだそんな人材は少ない。つまり、今、この分野なら、かなり価値の高いプロに早期に成長することができるのです。

今という時代は、インタラクティブ広告の分野で活躍したいと考える人には、千載一遇のチャンス。5年後、10年後ではなく、タイミングは、今なのです。

どうか、勇気とチャレンジスピリットで飛び込んで来てほしいと思います。

本日はありがとうございました。

interviewer:プロフェッショナルメディア 若村

PROFILE

田村栄治(たむら・えいじ)。慶應義塾大学法学部法律学科卒。1991年(株)博報堂入社。同社営業局にて、数々の大手国内企業の国内外における広告宣伝業務、外資系企業の日本国内におけるマーケティング業務に携わる。2002年1月からは(株)サイバーエージェントにおいてインターネットコミュニケーションに特化した広告およびメディア開発・運営事業を統括。マスメディアとインターネットそれぞれの特性を活かした企業のトータルコミュニケーション戦略の構築を目指している。

株式会社スパイスボックス

http://www.spicebox.co.jp/

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