DXキャリア
WEB・IT・クリエイティブ業界の総合求人サイト
< 正社員 / フリーランス / 派遣 / 副業 >

広告業界の未来

第6回 interview

広告業界の未来を語る[株式会社スタジオ イー・スペース 代表取締役 クリエイティブディレクター 村上 竜雄氏2/3

スタジオ イー・スペースの強みを教えてください。

これは多分、強みでもあり弱みにもなると思いますが、「営業部門が無い」ということだと思います。社員全員が制作スキルを持っていて、「全員現場主義」を設立以来、貫いています。極端な言い方かも知れませんが、営業がいないっていう事は、お声かけ頂かない限り、仕事が来ないってことですよね。一応、ホームページにも問い合わせフォームを用意していますが、「お見積りのみのご依頼にはお応えできません」と書かせていただいています。

誤解のないようにしたいのですが、これは別に上から目線という訳ではなくて、何より「今いるお客様を大事にしたい」ということなんです。当社の事業は、ほとんどが労働集約的なものです。営業回りにコストを使ったり、相見積りやディスカウントを繰り返したり、もしくはプレゼンのために、無償でデザインやグラフィックを起こしたりすると、「じゃあ、その人件費はどこから出ているの?」と考えれば、結局のところ、「今のお客様のお支払いから」だったりするわけです。そんな馬鹿な話はないですよね。お客さまから頂いたお金は、できる限り多く、そのお客さまへ使いたい。というシンプルな考えです。

少し話は飛んでしまいますが、自分は「料亭」のサービスコンセプトがすごく好きなんです。料亭が「一見さんお断り」にするのは、今いるお客様に対して、ベストなサービスをするためなんだそうです。お会計1つとっても、その場では煩わしい清算は行わず、後日請求するとか、その場の空気を読んで、その人の事を理解した上でベストなサービスを組み立てる。一見さんが見境なく入って来ると、そういったことが成り立たなくなってしまうんだそうです。業種は違えど、そういうサービスが実現できれば素敵だなぁと考えて、日々精進しています。スタッフには仕事がなくなる=必要とされていないのだから解散だと話をしています。(笑)

年々広告業界の業態が変化していっている中、インターネットの存在感が強まっていますが、既存メディアとの関係性はどのようになっていくと思われますか?

自分は広告業においては門外漢ですので、制作者としての視点からの意見となりますが、「広告自体を再定義しなければならない」のではないかと考えています。例えば、「広報」「宣伝」「販促」の3つについて、多くの企業では縦割りで、部署も担当者も異なっています。それがそのまま、作っているものの違いとして体現されていることに気付いたんです。「広報」は広報誌やプレスリリース、「宣伝」は新聞・雑誌、テレビのCMなど、「販促」は店頭ポップやチラシを、それぞれの成果物として作っている。ホームページは総務部担当だが、実際にはコンピュータに強いシステム部が担当している。これって、これまでの制約の中で情報を伝えてきた過去の遺産のような気がするんです。昨今、「宣伝部の崩壊」とかよく言われていますけど、それは、宣伝部が不要なのではなくて、メディアの変化に合わせて再構築すべきという意味ですよね。

例えば「Twitterは、上記3つの部署、どこが担当しますか?」っていうと、どれでもあるようでどれでもなかったりする。それ以上かもしれない。いい意味でも、悪い意味でも、ブランディングにも繋がるでしょうし、ダイレクトに販促にもなり、場合によってはサポート窓口として機能するかもしれない。

インターネットを、4マス媒体の次の5つ目という概念で捉えている方がいらっしゃるのですが、そもそも僕はインターネットと既存の4媒体を、横並びに考えてはいけないと考えています。というか、そもそもレイヤーが異なっている。インターネットというのは「紙」とか「電波」とか、そういう次元で捉えるべきもの。あくまでも「インフラ」であって、それ以上でもそれ以下でもないと思うんです。何かを伝えるための土台であるインフラ自体が変わっているわけだから、コミュニケーション自体も変わり、広告という仕事も変わってゆく。なので、既存メディアとネットメディアという関係性として延長上に捉えるのではなく、ブランドサイトやオフィシャルサイトといった企業が所有するようなメディアのあり方や、SNSやFeedのような、今まで超局所的であった「口コミ」が、クラウドに蓄積され、世界中から検索可能になった新たなメディアなど、今まであったものと新しいものを、一旦ごちゃごちゃっと丸めて、改めて、さぁ、どう再構築していくかといった取組みが重要だと思っています。

コミュニケーションの取り方で、TVなど今まであった既存の広告手法と比べて、ウェブの手法や注意点についてお聞かせください。

1番大切なポイントは「時間軸」だと考えています。周辺のキーワードとしては、シチュエーションとかカスタマイズ、パーソナライズ。砕けた言い方をすると、「空気を読んで、必要な人に必要な分だけ、ベストなタイミングで情報を届けましょう」といったところでしょうか。モバイルやスマートフォンなんてその最たるものですよね。いつも身近にあるものですし、その人が何をしているかによって届ける情報をパーソナライズする。ユーザ側からも、自分の好みでカスタマイズできる。位置情報も取れるのだから、都心にいるのか山にいるのか、海にいるのか、昼どきなのか、週末なのか。日常のコミュニケーションで皆が無意識に行っている、空気を読んだその場にあった会話を、広告手法としても取り込んでゆくことが、従来の一斉発信的な手法と最も異なる点ではないでしょうか。

クリエイティブにおいても、レイアウトやコピー自体をシステムが動的に生成して、どれが、どの時間帯・場所において、1番レスポンスが良いのか、自動的にテスト&最適化することが可能になってくる。色やレイアウト、キャッチコピーを机上で延々議論しているのではなくて、まずは、色々と試してみようよ、と。テクノロジー発のクリエイティブというのも、1つのクリエイティブだと思うんですよね。テクノロジーに元の素材を入れるのは人間ですし、1度、システムを介して、そこにまた人間が頭脳を入れてとか、新しいコラボレーションとして面白いと思うんです。

もう1点、挙げさせていただくとすれば、機能とインターフェースでしょうか。テレビもデジタル化で、どんどん双方向的な機能が追加されてきていますが、これまでの広告は、基本的に「機能」はついていなかった。そのため、当然インターフェイスもいらない。WEB業界に紙メディアの方が転職されてくると、多くの人が、インターフェイスに戸惑うようです。極端な例ですが、企業が配布している無償のiPhoneアプリなんかは、その典型的な例ですよね。機能がついているというよりは、もはや「機能」自体が全てで、ユーザのお役に立てる機能を提供して、それによってブランドや商品・サービスを刷り込んでいく。多くの方が評論していますが、「iPhone」人気の大きな理由の1つは、やっぱり「ユーザーインターフェース」だと思っています。直感的に触れて、しかも、期待通りかそれ以上のレスポンスが得られて、触って気持ちよい。今までのグラフィックの世界では存在すらしなかった、この部分の感覚が、今後、益々重要になってくるのではないかと考えています。

クリエイターの方々が仕事をする上で、もっとここを意識しながら仕事をした方が良いと思われるポイントはありますか?

「コミュニケーションをデザインする」ということを、もっと意識した方が良いと思っています。これは、当社でも10年来のキーワードになっていて、スタッフにもかねてから伝えていることなのですが、そもそも私たちは、作ること自体を目的としているのではなく、プロとして、情報伝達のお手伝いをしてお金を頂いているわけですから、「クライアントが求める情報コミュニケーションを、期待通りに実現する」ことがミッションなのです。情報を発信したい人(広告主)がいて、それを皆さん(消費者)に伝えるお手伝いをするためにデザインがある。この意識で物を考えていかないといけない。プロジェクトの全体感を捉えて、その上で「自分の受け持っている領域はどこなのか?」「自分は何をすれば良いのか?」ということをきちんと把握して、その上で、コミュニケーションをデザインしていかなければならないと考えています。